時代の大きな流れに乗り、つながりや共感による力で世界を動かそうとする若者たちは、何を考え行動しているのか。
今や、世界人口の3割を占めるとされるZ世代。アメリカで、1960年代中盤~1980年頃生まれを「X世代」、1980年頃~1990年代中盤生まれを「Y世代(ミレニアル世代)」と呼ぶようになったことから、その次の世代として1990年代中盤から2010年代に生まれた若者たちは「Z世代」と呼ばれています。インターネットが使える環境で育ち、スマホを日常的に使いこなし、SNSにも親しんできたZ世代は「ネオ・デジタルネイティブ」でもあります。
日々、膨大な量の情報を処理することを当たり前とし、他の世代よりも社会の多様性に対する受容度が高いZ世代。アメリカのワシントンD.C.に本拠地を置くPew Research Centerの調査によると、アメリカのZ世代と一つ上のミレニアル世代は、それよりも上の世代と比較すると、SNSを通じて気候変動や環境問題に関するコンテンツを視聴し、互いに語り合い、ボランティア活動や集会等への参加などを通じてこれらの問題に関与しようと、自ら行動を起こしている、とのことです1)。
また、「商品(モノ)」よりも「サービスや経験(コト)」に価値を見いだす傾向があり、他者との競争よりも、自己実現や社会貢献に対する欲求が強く、高い可能性も持ち合わせています。
しかし、これらのZ世代の特徴は、あくまでも一般論。必ずしもZ世代が全員こうした特徴を持っているとは限りません。社会の多様性の受け入れやすさだけではなく、彼ら自身の中にも多様性は存在しているのです。
Z世代の「価値」の捉え方、今までの若者とは何が違う?
Z世代の中には、買い物をするとき、多少高価なモノでも「メンテナンスしながら長く使うこと」に価値を見い出す人がいます。
同じ商品でも、少し高いものを買って整備して使うようにしています。最近買ったのは、3万円くらいする「ほどほど良い包丁」。自分の収入から考えると少し高価ですが、砥ぎに出しながら長く使いたい。地球にも自分(お金)にも良い買い物だと思っています。(船井)
食に対しても、彼らなりの価値を追求します。例えば、いつでも手軽に手に入るコンビニご飯に対し、「何を食べるか、というモノの価値ではなく、食事をするというコトの価値が、コンビニご飯には見いだせない」と、現代の食の在り方に疑問を持つ奥浜さんは言います。
もちろん、コンビニのご飯がすべて悪いのではありません。それが当たり前になりすぎて、それ以外を受け入れない若者が増えているように感じます。
本来、食べるモノや食べるコトへの興味関心を育てることが「食育」のはず。農耕地や作物の育て方の話も大事ですが、「食べることは身体にどのような変化をもたらすか」とか、「食事をすることの意味や価値」について我々の世代はもっと意識的になるべきだと思います。認識不足や誤った考え方で行動した結果、食への関心を持たない人が増えていることが問題だと思っています。(奥浜)
さらに、衝動買いはしない、不要なものは捨てるよりも売るというZ世代は、学生時代の参考書等を売ることも躊躇しません。なぜなら、学んだという経験にこそ価値があるからです。
しかし中には、「コトへの価値」を追求する姿に対し、必ずしも全員が同じ考えでは無いことを、余裕を持った行動はできない人たちもいる、という意見もあります。
自分と同世代でも、明日のご飯の心配が先という人は実際にいます。バイトバイトのカツカツな生活で、食べるコトへの価値よりも、明日のご飯をどうするか、食べるモノへの価値を考えている。生きていくのが精一杯という人もいるんです。(天本)
こうした価値観の違いも、Z世代の中には確かにあります。そこには、生まれ育った環境の違い、受けてきた教育の違いもあるのだと、彼らは言います。
誰しもが同じレベルで社会課題に取り組んでいるわけではない
2020年、アメリカに拠点を置く世界最大の監査法人デロイト トーマツ グループは、日本やアメリカ、ヨーロッパのミレニアル世代とZ世代に対する意識調査を行いました。その結果をまとめたGlobal Millennial Survey 2020によると、調査対象のうち3割程度は「気候変動・環境保全」に懸念を抱いているとのことです2)。
今回の参加者の中にも、世界的な環境問題の一つとして注目されているマイクロプラスチック問題を自分事として捉え、自ら行動を起こしている人がいました。
海に浮かぶプラスチックを減らすなら、プラスチックごみを出さなければ良い。自分の出身校がそういう考えだったからか、校内では缶飲料しか売って無かったので、ペットボトル飲料は飲まなくなりました。その習慣は今でも続いていて、飲み物を買うなら缶か瓶です。(船井)
缶は再利用ができる、だからきちんと回収できれば、環境問題への影響は少ないという考えのようです。
その一方で、単にプラスチックが減れば良いわけではない、という考え方もあります。
缶にも製造するとき、多くの電力を使い、多くの化石燃料使用につながる問題があり、矛盾しているのではないかとも思います。あっちを立てればこっちが立たずのようになっている。近年はあちらこちらでSDGsへの取り組みが叫ばれていますが、この風潮にもある一局面しか見てない取り組みや議論のような気がして少し違和感があります。(岩田)
その根底には、「生きてきた環境によって培われた価値観の違い」もあるようです。
東南アジアに留学していた時に感じたのは、世界中の人が同じレベルで環境問題に取り組むのは難しいのではないか、ということです。
例えば、食品を購入したときの包装。東南アジアにはそもそも、食品を包装するという慣習が薄いところも多く、卵も何もそのまま、中には殻にヒビが入っていたり虫がたかっていたりするものもありました。日本で生まれ育った私にとって、プラスチック包装ゼロの食品を受け入れることは難しいです。(天本)
プラスチック削減の必要性は理解できても、日本で生まれ育った自分の中でどこまで許容できるのか。そこに環境問題への認識、SDGsへの取り組み方の違いが現れてくるようです。
自分は、留学や、海外で生活した経験が無いし、喫緊の問題としての環境問題というのが、正直なところよくわからない。マイクロプラスチックのゴミがあるというのは聞きますし、実際にたくさんのゴミを目にしてもいます。でも、自分の生活に差し迫った問題という認識は、あまりないように思います。何かきっかけがあれば変わるかもしれませんが……。(岩田)
本を読んだりネットで調べたりしても、二次情報として得るだけだと自分事として落ちてきません。だから直接、何かを体験する必要がある。隣国のゴミを買い受けるとか、他国からのゴミがたくさん捨てられている光景を生で見るとか。そうした経験があれば、環境問題も自分事として捉え、自らの意思で行動出来るのだと思います。(船井)
誰かに言われたから、周りがやっているからと何となく行動するのではなく、自分の意思で、何にどう向き合うべきなのか。高い意識と可能性を持つ彼らが求めているのはきっかけであり、行動につなげるための根拠なのかもしれません。
未来をつくるZ世代が職業人として求めていることは何か
2020年。アメリカ・フロリダ州に本拠地を置くIT企業Citrix Systemsが、日本を含むグローバルな国のデジタル世代(Born Digital)を対象に行った意識調査の結果(Work 2035 The Born Digital Effect)によると、デジタル世代が仕事に求めるものは、仕事への満足度、キャリアの安定性とセキュリティ、ワークライフバランスが、それぞれ8割以上を占めています3)。
収入よりも「自分が何をしたいのか」を重視しています。自分の行動で何かを伝える、伝えていけるような活動がしたい。その一環に仕事があると考えています。(奥浜)
しかし、Z世代の仕事に対する考え方はほかにもあります。前出のDeloitte「Global Millennial Survey 2020」では、環境問題に続き、失業や所得格差・富の分配にもそれぞれ、2割程度の若者が懸念を抱いているようです2)。
収入を増やしたかったら副業しろというのが異常だと思っています。普通に(社会人として)成長すれば効果が出る、本業に打ち込めば収入も増えるはずなんです。本業だけでやっていけないような社会では、成長は望めないと考えています。(船井)
目下の関心は、日本や世界を変えてやるというより、この枠組みの中でどうやって自分の生活を確保していくのか、かもしれません。働いても収入が増えないなら、働かない選択肢を探していくこともあり得ます。(岩田)
彼らは「企業の中で働く」という経験(コト)よりも、社会という枠組みの中で何が出来るのかという、自らが望む経験(コト)を得たいと考えています。
会社とはあくまでも、自分のスキルを磨くための器と捉えています。自分のスキルを高めていくことに重きを置きたい。いずれ外の世界に出ることになっても、社会をつくっていける人間になりたいと考えています。(岩田)
Z世代が重視する「経験(コト)」は、他人から与えられるものではなく、自らが選択していくものなのです。
Z世代ならではの社会課題との向き合い方
「ネオ・デジタルネイティブ」であるZ世代には、SNS等を通じて知り得たことや、人とのつながりをきっかけとして行動するという側面があります。しかしそれは、自分の意思とは違う・誰かに決められた行動ではありません。
Z世代に共通しているのは、一つひとつの行動に対する「価値」を見い出すということ、そのためには自らが望むような経験を重ねていきたいという意欲です。社会全体に目を向け、違う世代とも価値観さえ合えば同じ目標に向かって連携していく大きな戦力となる。そんな未知なる可能性を秘めているのが、Z世代なのです。
参考資料
2)デロイト トーマツ グループ
The Deloitte Global Millennial Survey 2020
3)Citrix
Work 2035 The Born Digital Effect -Young Workers and the New Knowledge Economy-