自動車産業では脱炭素化への移行が急速に進みつつあります。EUでは、CO₂を排出しない「ゼロエミッション」車両へのパラダイムシフトを加速するため、2035年以降にガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車(HV)の販売を禁止することを発表しています。
しかし、ゼロエミッション電気自動車や水素燃料電池車はバッテリーや水素タンクが重いために、車体重量が従来の車よりも20~30%重くなります。これにより、衝突時の衝撃が増加します。電気自動車の高電圧コンポーネントはもちろん、運転者や乗員も保護するため、より軽量で衝撃吸収性の高い材料設計が求められています。
これを受けて、現代自動車欧州技術センター(Hyundai Motor Europe Technical Center)とテイジン・オートモーティブ・テクノロジーズ(Teijin Automotive Technologies)は、将来性の高い新たなソリューションを導入しています。
テイジン・オートモーティブ・テクノロジーズと現代自動車欧州技術センターは、両者が共同開発した「軽量マルチマテリアルドア」コンセプトが、2022年JECイノベーションアワード(JEC Innovation Award)の自動車・道路輸送部門において最終候補に選出されたことを発表しました。このドアには、特別に改変した低VOCの「TCA Ultra Lite®」アウターパネル、ハイブリッドガラスと炭素繊維を用いて製作したSMCインナーパネル、そして革新的なスチール内部補強リングを用いており、スチール製の従来のドアよりも2.7kg軽量です。
現代自動車欧州技術センターとテイジン・オートモーティブによるこの共同開発プロジェクトでは、オンライン塗装とオフライン塗装の両方を含むさまざまな製造ラインに対応する、安価で提供できる高性能かつ軽量なドアモジュールの開発を目的としていました。
本共同プロジェクトでは、このドアに最適な2つの革新的な複合材料を開発しました。アウターパネルに用いる低VOCの「TCA Ultra Lite」は、ドアなどのボディパネルに最適です。このE-coat(電着塗装対応材料)は、プレス加工金属では達成できない深絞り加工、A級仕上、腐食・凹み・表面キズに対する優れた耐性といった設計上のメリットをもたらします。低VOCであるため、標準的な下塗り加工や電着塗装焼き付けにおける揮発性有機化合物(VOC)の厳しい排出制限を達成できます。焼き付け工程次第では、焼き付け後にベンゼン、フェノール、N-メチルピロリドンを一切排出せず、スチレンの排出量はわずか1-2ppmに留まります。
このドアのインナーパネルは、ハイブリットガラスと炭素繊維による新しい材料であるSMC材料を用いて作られています。剛性と強度を高めながらもコストを抑えるため、ガラスと炭素繊維を均質に混合して成形特性を最適化しつつも、コスト削減のため炭素繊維含有量を最低限に抑えました。
車両ドアに必要な構造性能を達成するために、革新的な内部補強リングを開発することで静的剛性と衝突抵抗の両方について最適な負荷経路を実現しました。
軽量ドア構造のコンセプト開発に向けた詳細な評価を、現代自動車欧州技術センターとテイジン・オートモーティブ・テクノロジーズが共同で実施しました。
現代自動車欧州技術センターにおける車体クロージャー・エキスパートであるJerome Coulton氏は次のように説明します。「オンライン塗装とオフライン塗装を含むさまざまな製造コンセプトに対応しつつも、安価に製作できる高性能で軽量なドア構造を開発する共同プロジェクトを行っています。スチール製ドアに比べて大幅な軽量化を達成しながら、現代自動車グループの設計・エンジニアリング仕様に適合するコンセプトを量産に適したコストで実現できました。」
テイジン・オートモーティブ・テクノロジーズの研究開発部門でディレクターを務めるMarc-Philippe Toitgans氏は、現代自動車の開発プロジェクトへの協力に感謝を述べています。
「この共同開発では、コンセプトの作成、プロトタイプの製造、現代の標準塗装ラインにおける広範なテストの実施、エンドユーザーが得られる利点の検証を行うことができました。」
開発・検証段階が完了したことで、本技術は現代自動車グループの技術ポートフォリオに組み入れられました。今後は新車製造において用いられていく見込みです。
多くの国においてカーボンニュートラルを促進する政策が実施されており、耐衝撃性の改善などといった自動車安全の向上がますます求められています。ここで紹介したような新技術が自動車業界を明るい未来へと導くのかもしれません。