世界の起業家を惹きつける、欧州のシリコンバレー、エストニアのエコシステム 第1話(全2話)
まずはじめに
国民1人辺りのスタートアップ企業数、ユニコーン企業数が世界1位である世界最先端のIT国家「エストニア」。日本とのつながりも長く、2021年は日本とエストニアの友好100周年記念の年でもあります。
人口約130万人の国が築いたスタートアップエコシステムの秘密と協業のあるべき形について、駐日エストニア大使館のOliver Ait氏(※以下、Oliver氏)にお話を伺いました。
エストニア共和国大使館 商務官 / アイト オリバー氏
本インタビューの背景
─ 今回の取材の経緯について、エストニア大使館様とテイジンでこのような対談の機会をいただくにあたって、Oliverさんがテイジンの取り組みにご興味を持っていただいたきっかけについてお聞かせください。
【Oliver氏】改めてこのような機会をいただき、ありがとうございます。今回はイノベーションプログラム「Innovation challenge for sustainability and well-being produced by Teijin 」をAgorizeというグローバルなオープンイノベーションを支援する企業から紹介いただいたのがきっかけです。エストニアのスタートアップも参加しており、本プロジェクトには注目しておりました。
エストニアとイノベーションについて
─ まずはじめに、Oliverさんの駐日エストニア共和国大使館における役割、業務についてお聞かせください。
【Oliver氏】現在、私は駐日エストニア共和国大使館の商務官として、日本マーケットへの進出を検討するエストニア企業へのサポート、および日本からエストニアへの投資や企業誘致の支援をしております。また、エストニアのビジネス環境や投資環境、スタートアップエコシステム等のご紹介など、よりエストニアについて知っていただくための活動も行っております。例えば、エストニアに関するビジネスセミナーやスタートアップ関連イベントの実施、政治・経済関連の派遣団がエストニアを訪問あるいは来日する際の同行もしております。日本とエストニアの経済・ビジネスの関係を強めることにつながる仕事ですね。
─ エストニアがイノベーションやスタートアップ輩出において世界でも先進的である理由は何だとお考えですか?
【Oliver氏】エストニアの人口は約130万人です。それに対して、1300ものスタートアップ企業があり、ユニコーン企業*の数も国民一人当たり世界一です。これらの点からも、エストニアに起業家が生まれやすい、集まりやすいことはお分かりいただけると思います。エストニアの強みはいくつかあります。まず行政手続きや公共サービス申請などが99%オンラインで完結でき、世界最先端の電子国家とも言われている点です。例えば、数時間で会社の設立ができること、電子納税システムや電子署名などの電子サービスで手続きが完結することなどが挙げられます。国民や会社にとって煩雑で時間がかかるものをデジタル化することで、生活やビジネスがしやすい環境となっているため、デジタルを受け入れる心理的障壁が高くないことは一つの理由と思います。
次に、教育です。エストニアはOECDの学習到達度調査(PISA)*で欧州トップレベル、そして世界でも上位にランキングされています。天然資源が限られているので、エストニアの唯一の資源と言えるのは人、その頭脳というわけです。
そして、「Skype効果」と呼んでいるのですが、これも大きな影響があると感じています。皆さんも聞いたこと、使われたことがあるSkypeですが、エストニアの開発者から生まれたサービスです。最初はeBayに買収され、現在はMicrosoftグループですが、Skypeの成功が多くのエストニアの若い起業家にとって刺激とモチベーションになりました。また、エストニアのスタートアップエコシステムへの資金面での影響も大きく、エストニアスタートアップが資金調達しやすくなりました。さらに、Skypeの創業メンバーは、自身が得た経験や知識を惜しみなくエストニア国内で共有しており、協力的なコミュニティが形成されています。
他にも多くの要因はあるのですが、特徴的なものとして、スタートアップのマインドセットを育むため、政府、民間企業や大学組織が連携し、150以上のプログラムが会社の設立からスケールアップまでサポートする環境が整っているのも大きいと思います。教育レベルは高くても、人口が約130万人で、人的リソースは限られているので、それが官民連携を促進するきっかけになっています。
エストニアのスタートアップエコシステムに関する情報(外部リンク)
https://startupestonia.ee/startup-ecosystem (英語)
教育の影響は大きく、エストニアの若い世代の意識は他国と違うと思います。国がコンパクトなこともあり、課題に対して自分動くことで変化を与えられる、ということを信じており、問題の解決を他人事にせず自分事として捉え、スピーディにアクションに移します。国や文化の違いもあると思うのですが、「どうせ国がやってくれる」とか「他の人がやるだろう」ではなく、「自分の能力を活かして、どう解決しようか」というマインドを持つ人が多いと感じます。これがスタートアップ精神に強く結びついていると考えます。自らどうやって解決できるか考え、行動します。実現するため、政府や企業に自ら働きかけます。一方、国民の数が多いと、相対的に自分1人の力が小さく感じられ、世の中に働きかけるモチベーションが湧きにくくなっているのかもしれません。
政府と民間企業の意見交換 / コミュニケーションが取りやすく、課題やニーズに素早く反応し、スムーズに意見交換をし、アクションにつなげる環境が整っています。組織はそれぞれフラットで、エストニア人だけでなく、外国人も様々なサービスや組織にアクセスしやすい環境が整っていると言えます。
(注釈)
* ユニコーン企業:「企業評価額が10億ドル (1ドル約110円換算で1,100億円) 以上で、設立10年以内の非上場ベンチャー企業」を指します。
* OECDの学習到達度調査(PISA):OECD加盟国を中心として3年毎に実施される15歳を対象とした国際的な学習到達度テストであり、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野を試験し、義務教育修了時点で学んだ知識を実生活にどの程度応用できるのかを測るものとなっている。ちなみに、2018年で日本は読解力(15位)・数学的リテラシー(6位)・科学的リテラシー(5位)
・参照:文部科学省国立教育政策研究所 https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2018/03_result.pdf (外部リンク)