自動車設計の未来を切り拓く TAT のイノベーションが賞を獲得
複合材料で世界をリード
Teijin Automotive Technologies (TAT)が開発したマルチマテリアルによるバッテリーボックスが、米国のプラスチック技術者協会であるSociety of Plastics Engineers主催の2022年 Automotive Composites Conference & Exhibition (ACCE) でPeople’s Choice Awardを受賞しました。この電気自動車用バッテリーボックスはボックス部分とトレー部分で構成されており、従来品に比べて構造と安全性を改善しただけでなく、組立・締付方法でも革新的に進歩しています(一部特許出願中)。
今回の新製品は、TATが複合材料を用いて自動車の設計を再構築する第一歩ですが、「複合材料で作ることができない車の部品は、今はほぼありません。全部品を複合材料で作れるようになるのも遠い未来ではないでしょう」と、先進開発センターのエグゼクティブディレクター、Hugh Foran氏は予想します。
TATは2021年に設立されました。始まりは帝人による2017年のContinental Structural Plastics とその合弁会社CSP Victall買収でした。その後同社はInapalとBenet Automotiveを傘下に入れ、Teijin Automotive Center Europeを統合しました。Continental Structural Plastics があった米国ミシガン州オーバーンヒルに本社を構え、北米、ヨーロッパ、アジアへとグローバルに事業を展開しています。
帝人の傘下となったことで、Foran氏の業務ははるかに規模が大きくなりました。「今まで進出していなかった分野へ事業を展開できるようになりました。」自動車産業にとってグローバルな思考が絶対に必要と考えるForan氏は、「どの自動車メーカーも世界中に製品を展開しているわけですから、グローバルなサプライチェーンを持つことが自動車メーカーとの協業にとって不可欠です。」と説明します。TAT の顧客は、日産、トヨタ、メルセデス・ベンツ、ステランティス、ゼネラルモーターズ(GM)、フォード、BMWなどの大手自動車メーカーであり、皆さんが今乗られている車にもほぼ確実に帝人の材料が使われていると思います。
Continental Structural Plasticsが開発した成形技術と、帝人が数十年間にわたって研究を行ってきた材料技術を融合させることで、新たな製品が生み出されています。「これまで当社ではシート成形複合材料や熱可塑性プラスチックを専門に扱っていましたが、帝人グループの一員になってからは、炭素繊維やアラミド繊維などのさまざまな材料も扱えるようになりました」とForan氏。「これにより、シート成形部品だけでなく、他の幅広い自動車部品やマルチマテリアル製品の開発が可能になりました。」
Continental Structural Plasticsの電気自動車事業の始まりは、2010年台初頭のハイブリッド車や電気自動車への関心の高まりを受けて、GMの小型電気自動車、シボレー・スパーク EVの開発を開始したときでした。「現在、さまざまなメーカーに向けて40種類以上のバッテリーカバーを製造しています。」Foran氏は続けます。「我々が培ってきた経験を生かすことで、材料を平均15〜30%軽量化できただけでなく、ほとんどの部品を一体構造として成形するため、メーカーによる組み立て時間も減らすことができました。」
複合材料のおかげで、電気自動車の設計は驚異的な早さで進化しています。「当社の一部の複合材料の耐温度性は、アルミニウムの30%高くなっています」とForan氏は語ります。
電気自動車のバッテリーにおいては、耐熱性だけでなくバッテリーへの異物侵入防止も重要な課題となっています。「複合材料で一体型の成形をすれば、バッテリーケースへの異物侵入経路ができません。かつては組み立て式バッテリーボックスへの異物侵入を防ぐため、シーラントが使用されていました。が、土砂降りの中を電気自動車で運転するなら、絶対水は入って欲しくないですよね。」
バッテリー中心の自動車設計の可能性
Foran氏は役員でありながら現場主義を貫かれており、ジーンズ姿のForan氏が、役員室ではなく先進開発センターで見掛けられるそうです。「働いていると、服が汚れますから。」と。「メーカー側でバッテリーボックスの自社内テストができるよう、バッテリーボックスのサンプル設計図を提供しています。特殊仕様の場合は、私たちが実際に組み立て、動いている様子をご覧頂いています。」
お客様と密に連絡を取り合うことで、市場のニーズに沿った製品設計を実現しています。ACCE賞を受賞したマルチマテリアルバッテリーボックスも、ただ、ベンチマークを達成するだけでなく、お客様のご要望に直接対応するというTATのアプローチを体現するものです。「より多くの車両に対応する、よりコンパクトで、より安全なバッテリーボックスを開発しています」とForan氏。しかし、そういった性能面の向上を越えた、新しいイノベーションも進んでいます。「重要なのは設計ジオメトリです。このアプローチにより、たとえばバッテリーボックスと車の底部分の一体化などを検討できます。当社には車のシートやセンターコンソールなどの構造要素をバッテリーボックスとして成形できる技術があります。実現できれば、すべてが変わるでしょう」とForan氏は意気込みます。こうしたバッテリー中心のアプローチが自動車設計の新たな未来を切り拓くでしょう。
未来のための計画を今日この日から
サスティナビリティは設計プロセスにおいて常に重要な要素ですが、最近はサスティナビリティにおける課題が大きく変化してきたと彼は言います。「メーカーから頻繁に問い合わせを受けるリサイクル部品利用の割合については年々改善を続けていますが、北米では、リサイクルすることそのものより、部品の回収・分解・リサイクルをどのように行うかということが課題でした。」とForan氏。「材料、特に熱可塑性プラスチックを開発する際には、リサイクルを念頭に置いて開発しています。当社の熱硬化性製品の多くは耐熱性が非常に高いため溶解させられずリサイクルが困難ですので、耐熱性とリサイクル性の絶妙なバランスを取らねばなりません。とりわけ、メーカーによって温度など基準が異なりますので、かなり気を遣っています。」
耐久性と寿命も重要です。「車載バッテリーは一般的に約64万kmで交換されます。しかし、スチール製やアルミニウム製のバッテリーボックスと比較して、複合材料のバッテリーボックスはバッテリーの腐食やその他損傷の防止効果が高いため、中古バッテリーとして買い取ってもらえるのです。」とForan氏は指摘します。中古バッテリーは街灯や基地局のバックアップ電源などさまざまな用途に活用されます。バッテリーの寿命が尽きるまで使うことは、バッテリーをリサイクルすることと同じくらい重要なのです。
しかし、製品や材料の環境影響評価には、リサイクル性以外にも重要な指標があります。それは電力使用量です。Foran氏は次のようにコメントしています。「サイクルタイム、つまり製品の製造に費やされる時間も、重要な課題です。当社では部品の成形に4,000トンのプレス機を使用していますので、サイクルタイムを少し短縮するだけでも大きな省エネ効果があります。そして、ここでも材料が重要になってきます。当社のHexacore™技術を用いた最先端の材料を使用することで、材料を薄くして電力消費量を削減しています。」
TAT全社からアイデアを結集することも、技術進歩に大きく貢献しています。「TATとして一つの会社にまとまったことで、日々の活動や定期会議などの場で交流の機会が増えました。実際、ACCE賞を受賞したバッテリーボックスも、社内会議の場から生まれたアイデアです。」
「複合材料の発展をさえぎるものがあるならば、『想像力の欠如』のみです。」とForan氏は締めくくりました。
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Teijin Automotive Technologies on YouTube (英語サイト)