市場にばらまいた製品をリユース、リサイクル、廃棄まで視野に置く回収物流の可能性
静脈物流とは、市場に出回った製品を回収し、リユースやリサイクル、破棄するためのモノの流れのことを指します。最初は、米国でリバースロジスティクスと呼ばれ取り組みが始まり、日本では静脈物流と訳されました。ちなみに、原材料・生産・販売・利用といった生産物を消費者に運ぶ通常のサプライチェーンの流れに沿った物流は、動脈物流と呼びます。これらは、血液の体循環で、心臓から酸素や栄養を含んだ血液を体中に送る血流を動脈、体の各所から二酸化炭素や老廃物を含んだ血液を集める血流を静脈と呼ぶのになぞらえた名称です。
静脈物流には、リサイクルなどに向けた「回収物流」、誤発注や不良品などを扱う「返品物流」、廃棄物として適切に処理するための「廃棄物流」の3種類があります。環境問題が深刻化しつつある現代では、限りある資源を再利用・再資源化していくため、静脈物流の中でも特に回収物流の重要性が注目されています。
市場に製品を送り届けるのにも相応の労力やコストが必要ですが、一度市場に出回ったモノを再利用・破棄できる形で回収するのは段違いに難しい作業です。一般に、市場に出回った製品は、様々な製品が雑多に入り混じった状態で存在しています。その後の利用目的に合わせた分別がされていないわけです。また、回収した製品に含まれる部品や材料の内容、さらには利用履歴も分からない状態です。場合によっては、外見からは知ることができない危険物が含まれている可能性すらあります。例えば、水銀やカドミウムなど23種類の有害物質を含む産業廃棄物を日本では有害廃棄物に当たります。こうした情報は、リユースやリサイクルをする際には必須の情報になります。
「覆水盆に返らず」という諺(ことわざ)がありますが、静脈物流は、まさにばら撒いた水を盆に返すような作業だと言えます。静脈物流を効果的かつ効率的に行うためには、市場に出回っている製品の素性や状態を正確に把握することが何よりも大切になります。このため、動脈物流と静脈物流のプロセス、および市場投入後の製品個々の利用状況を追跡して可視化するためのトレーサビリティーが重要になります。ここでは、バーコードやQRコード*、製品に取り付けた半導体チップに製品・流通情報を無線で書き込むRFID(Radio Frequency Identification)、さらに将来的には個々に製品をインターネットにつなぐIoT(Internet of Things)などによって管理する情報システムを活用します。
さらに、動脈物流の担い手である材料や製品のメーカーや物流会社が、静脈物流の担い手である回収会社やリサイクル会社などと協力し、情報共有して可視化の精度を高めることも重要です。製品を生産・販売する段階で、廃棄・リサイクル・リユースすることを念頭においた製品づくりや物流手段の設計をすればさらに効果と効率は向上します。こうした、動脈と静脈を一体化したのを「動静脈一体物流」と呼びます。企業も社会も持続可能であるために、廃棄物流の仕組みを変えて循環型経済を実現する動静脈一体物流は今後重要なメソッドとなるでしょう。
* QRコードは、(株)デンソーウェーブの登録商標です