ソーラーカーレース挑戦を支える新技術
過酷な砂漠地帯の道路をひた走る流線形の白い車両。吹き荒れる強風に、若いドライバーの手はさらに固くハンドルを握り締めます。チームのため、支えてくれたすべての人、そしてモビリティの未来のためにゴールを目指します。世界最高峰のソーラーカーレース「Bridgestone World Solar Challenge」は、2年に1度開催され、オーストラリア大陸を北から南へ、5日間をかけて約3000㎞を走破します。
ソーラーカーレースは、車の表面に設置された太陽電池パネルから得られるエネルギーを動力に走る電気自動車の競技で、米国、日本、ヨーロッパやアフリカでも開催されています。「Bridgestone World Solar Challenge」では、ソーラーパネルの大きさは素材によって制限サイズが異なりますが、2.64㎡~4㎡程度。車両は縦5m×横2.2m×高さ1.6m以内の1人乗りで、2人以上のドライバーが交替で運転します。さらに、ドライバーの体重制限、各区間の走行時間などのルールもあります。
ソーラーカーレースの車両には、いくつかの重要な要素が求められます。空気抵抗,軽量化,安定に走行できる車体の剛性,太陽電池の施工方法で決まる発電性能です。エネルギー消費を最小限に抑えながら,いかに長距離走行を可能にできるか。そして、日照条件が刻々と変化する不安定な発電状況下でも長時間、無駄なく走行するため車両を戦略的に管理することです。
「Bridgestone World Solar Challenge」は1987年から開催され、現存するソーラーカーレースの中では最も歴史が長く、参加国数も最多を誇ります。工学院大学ソーラーチームは、2013年から参戦を続けています。レースは3つのクラスに分かれ、工学院大学ソーラーチームが出場したチャレンジャークラスは、スピードレースで文字通り世界一速いソーラーカーを決めます。2019年大会で、工学院大学ソーラーチームは5位入賞を果たしました。また、国内大会でも見事な成績を残しています。2021年8月、秋田県大潟村で開催されたソーラーカーレース「ワールドグリーンチャレンジ(WGC)」に参戦し、準優勝に輝きました。
2013年以降のBridgestone World Solar Challenge 参戦車両

1号機「KGUS09」
2号機「Practice」
3号機「OWL」
4号機「Wing」
5号機「Eagle」
この若き学生エンジニアたちの挑戦を支援する企業も、新技術の開発に挑み続けています。テイジンも「Bridgestone World Solar Challenge」では2013年の初参戦以来、車体向けの軽量・高強度素材、チームメンバーの快適性向上につながる素材や製品を幅広くサポートしています。
例えば、世界トップクラスの車両には空力性能の向上が求められるため、車体の一部を複雑な3D 曲面や細かなエッジ形状にする必要があります。そこで、テイジンの炭素繊維「テナックス」製超軽量織物プリプレグ(成形厚み0.06mm)を採用することで金型になじみやすく、積層もし易くなり、従来は難しいとされた複雑形状を簡易に成形可能としました。これにより軽量化だけではなく、低空気抵抗な車体を実現しました。
また、耐衝撃性と軽量性に優れたポリカーボネート樹脂「パンライト」を使用した窓は、車体の軽量化と搭乗者の安全性向上に貢献。鉄の8倍の強度と1/5の軽量性を有するパラ系アラミド繊維「テクノーラ」製プリプレグも、タイヤカバーの軽量化と耐久性を向上させました。
そして2019年大会では、高効率ソーラー発電の開発支援で協働。人工衛星用太陽電池(GaAsトリプルジャンクション)を搭載し、パネル面をフラットにして発電性を優先した構成を実現させました。
このソーラーカー開発で培われる技術・ノウハウは、太陽光発電の効率化や蓄電性能、軽量車体の設計・成形加工など多岐にわたります。これらはエネルギー消費量の最適化に寄与することで、持続可能な社会の実現に向けて欠かせないものとなります。
持続可能な社会の実現には、二酸化炭素(CO₂)を排出しない再生可能エネルギーの普及が鍵を握ります。企業の技術開発へのあくなき探求心とともに、ソーラーカーレースに懸ける若き学生エンジニアたちの情熱はきっと未来への扉を開くに違いありません。
工学院大学ソーラーチーム
工学院大学ソーラーチームは、100名を超える学生プロジェクトで、車両の開発・設計から製作、レースでの走行までを学生主体で行っています。
チームの研究・開発の拠点は、「総合研究所 ソーラービークル研究センター」。産学連携で研究開発からソーラーカーレースでの実践までを一貫して行うことで、クリーンエネルギー分野の技術革新・社会実装を目指しています。