複合材料業界で注目される最新トレンド
JEC World 2022では、複合材料業界の3つの重要なトレンドが明らかになりました。
https://www.jec-world.events/
1つ目は、「持続可能性に向けた戦略の進化」です。自社製品を持続可能にする取り組みが不十分な企業がある一方、持続可能性の実現への道筋をクリアに描いている企業もあります。このような足並みの違いがあると同時に、個々の戦略で重視している施策や達成しようとするレベルの違いも一様でありません。それでも、より多くの企業が持続可能性を考慮し、それを達成するための具体的な計画を作成し評価を受けることは意義あることです。
2つ目は、「標準化の必要性」です。複合材料市場の活性化のためには製品に関する共通の言語が必要であるということはすでに各所で合意されています。すでに業界内の各団体が標準化のためのイニシアチブを主導し、複数の利害関係者にとって欠かせないものとなっています。一例として、EuCIA (European Composites Industry Association – https://eucia.eu/ ) の「繊維ポリマー複合構造の欧州ルールへ向けてのイニシアチブ」があります。共通ルールは製品の詳細を理解するのに役立ち、次なる製品開発のアドバイスも得られます。また、EU加盟国ごとに決められた規則の標準化にもつながるでしょう。さらに、製品コードにリサイクル可能な物とその方法の明確な情報が含まれるようになればより持続可能な複合材料の開発が進むことも期待されます。
3つ目は、「デジタル化の加速」です。よく言われることですが、自動化やシミュレーションのようなデジタル化に関するトピックや技術にアンテナを張っておくことが一層重要になってきています。ありがちな予測の中で確かなのは、バリューチェーン全体にわたるデジタル化が持続可能性を加速させるのに役立つということです。したがって、SIMUTENCE (https://www.simutence.de/ )のスマートエンジニアリングのようなツールは、材料ベース産業の近代化推進に一役買っていると言えます。
これらトレンドの刮目すべき取り組みをいくつかご紹介します。
CompPair
CompPairは、マトリックスの自己修復を可能にするHealTech™テクノロジーで複合材料を製造しています。プリプレグ(マトリックス樹脂含浸シート )は、炭素とガラス補強材をベースとする複合材を製造するために使用され、100~150℃に加熱することで自らを修復して初期特性を取り戻します。例えば、キズや層間剥離(マトリックスの損傷)は、ヒートガンを使用することで最大60回まで簡単に修復が可能です。繊維に損傷が生じた場合、リサイクルして新製品(プリプレグ)を形成することができます。HealTech™テクノロジーが応用されている分野は、スポーツ、船舶、風力タービン用ブレード、航空宇宙、自動車、鉄道ですが、ほかの業界でも活用が期待されます。このテクノロジーは生産過程での廃棄物の量を削減し、出来上がった製品は修復が可能なので製品寿命が延び、リサイクルをより簡素化します。
https://comppair.ch/
Polyloop
Polyloopは、PVC容器の統合リサイクルシステムを提供しています。バッチ操作モードでは、STRAP(溶媒標的回収および沈殿)プロセスによりアルミニウムや織物繊維などの材料とPVCを分離することができ、年間最大500トンの稼働能力を有します。具体的な工程は、(1)前処理(洗浄、破砕)、(2)回転ドラムでの回分溶解、(3)非溶解物質の濾過、(4)溶媒の蒸発と水の添加、(5)リサイクルPVCの乾燥です。このソリューションは、PVC加工産業での実用が可能で、埋め立て用地の需要を減らして温室効果ガスの排出削減などの効果ももたらすと考えられています。
https://polyloop.fr/?lang=en
Molecular Plasma Group
Molecular Plasma Groupは、大気圧の低エネルギープラズマ技術による物質表面の機能化を専門としています。クエン酸やDNA配列のような(生体)分子は、プラズマのエネルギーを通して付加され活性化することができます。活性化された分子は分子機能化した乾いた表面に結合します 。表面上に(生体)分子を共有結合させるための溶媒、乾燥作業やインキュベーション時間が不要になるので、単層および多層処理が可能になります。この技術は、ヘルスケア、自動車、航空宇宙、エレクトロニクス、高度複合材料、包装や高技術の織物への応用に適しています。この技術によりひとつの工程の処理時間が10~100倍も短くなるので、エネルギー消費の低下と、結果的に温室効果ガス排出量の削減につながります。
https://molecularplasmagroup.com/
Fairmat
Fairmatの革新的な事業モデルは、「使用済み」製品を材料にするなど、他の企業が立ち入らないところにビジネスを見出しており、持続可能性の業界レベルを上げるのに役立つと言えます。同社は、再生炭素繊維複合材料からパネルや成形片を製造し、材料には主に炭素繊維を含む産業廃棄物(航空・風力発電関連廃棄物や使用済み製品からのスクラップなど)を使います。熱分解や加溶媒分解のようなリサイクル技術とは異なり、Fairmatは廃材を組み合わせて新しい製品を作るという方法を取っています。常温でのリサイクルなので元の材料は壊されず、炭素繊維の機械的特性は維持され、材料が劣化することもありません。生産開始にあたり、Fairmatはフランス・ブゲネにあるHexcelの既存工場を使用することになっています。リサイクル複合材料は、航空宇宙、自動車、風力エネルギー、レジャー用品、家電製品や環境に配慮した建設などの分野で利用できます。ラミネートおよびコンパウンド製品については、新たに必要とする原料はわずかであり、リサイクルは常温で行うため、温室効果ガス排出量が削減され循環型経済実現につながります。
https://www.fairmat.tech/
複合材料業界の持続可能なソリューション
複合材料の持続可能性を高める道のりは複雑で多様です。一般的に持続可能性の方向は、バイオベース材料やリサイクル製品由来の材料を使用するアプローチと、電気自動車(EV)などに軽量材料や可能な技術により性能改善した材料を使用するというソリューション型のアプローチに区別されます。企業側としては、持続可能なソリューション提供に重点を置いている企業もあれば、価格や機能性に重点を置いて持続可能性は二の次と考えている企業もあります。理想的には、価格、機能性、持続可能性の3つを同時に評価した上で最高の価値を提供する生産活動を実現することが望ましいでしょう。
持続可能性を考える場合、企業は、あらゆる製品・材料の流れをバリューチェーン全体で考えることが求められます。100%再生PETボトルでできた製品は好例 (例:Armacellのハイテクフォーム – https://local.armacell.com/en/armapet/ ) であり、原料ベースの問題を解決できます。次のステップは、使用後に燃焼もしくは埋め立てるという発想に基づかない使用済み製品のシナリオを描くことになると思います。そのため、販売後も材料・製品の行方を把握する必要があります。
持続可能性のためのもうひとつのソリューションは、製品の設計段階から、使用後に循環型経済内で応用しやすくなるように工夫しておくことです。
ここまでのまとめとして言えることは、ほとんどの企業に持続可能性の概念は浸透しているものの、循環型経済に向けた取り組みと知見はまだ少ないということです。リサイクル材料の使用は増えましたが、持続可能性を業界全体で制御していく仕組みについては議論が足りません。FairmMat のような企業の取り組みは、使用済み製品を自社製品に使用する際に物流を完全に管理するので、循環型経済の考え方に合致します。また、製品の追跡と循環型バリューチェーンに適した製品設計は、デジタルを駆使することによって実現が可能になるでしょう。
材料のリサイクル以外にも、軽量の材料を使用して燃料を節約し排出物を減らすことも持続可能なアプローチです。また、電気自動車などで使われる技術によって効率性が向上した複合材料も有用です。材料ひとつひとつのリサイクル性を高めることで、製品そのものの「持続可能性スコア」を改善することができるのです。
持続可能な材料を使用し、効率性の高い材料を製造するアプローチは、5月5日のパネルディスカッションで行われた「循環型の複合材料活用法:実質ゼロ世界に向けて」の内容にも即しています。専門家たちは持続可能で循環型の複合材料の可能性と課題を具体的に提示しました。パネルディスカッションの主な発言と結論は以下の通り:
– 複合材料は耐久性に優れる一方リサイクルが困難で循環型経済での活用が難しい。
より効率的なリサイクルを可能にする新しい技術開発が必要だ。
– 複合材料は重量を大幅に軽量化できるので最大60%のCO2削減が可能。
– 複合材料についての基準が設定されていない。建設業界などでは基準なしでは業界内での複合材料の使用が進まないので、基準の策定が鍵となる。
– 政府の立法スピードに比べて産業界が変化に対応するには時間がかかる。特に化学産業が変わるには長いスパンで対話を継続して進めていく必要がある。
– バリューチェーン・サプライチェーンにおいて循環性を実現するにはさまざまな課題がある。製品を再使用可能にするなど持続可能な製品設計が必要だ。
– 共通の見解として、循環型経済に対応するためには産業間のソリューションや協力が鍵になる。産業間ソリューションの鍵となるのは、信頼し合える関係性である。
複合材料を使用するソリューションが直接社会に影響を及ぼすという見解は保留されました。一方で、複合材料に関連する法整備が足りないことは言及されました。また、鉄鋼製品などが希少化しつつある地域では、複合材料はその代替物になり得ると示されましたが、複合材料の持つ社会性については基本的に論じられませんでした。
複合材料の社会性に着目している企業にR*Concept (https://livingrconcept.com/ )があります。複合加工用の樹脂・強化材(生地)を使った持続可能な製品ラインナップ(バイオベース材料、埋立ゼロ、下流価値の創出、完全循環型ソリューションを掲げる)を有するとともに、社会的なインパクトの創出と人々の意識向上を目指しています。会社名のRはリスペクト(respect)の頭文字で、複合材料のエコシステムに関わるすべての利害関係者が共有すべき基本概念を表しています。
複合材料業界が次に進むべき方向
JEC World 2022では、持続可能性が重要なトピックであり今日の企業が無視しがたい問題であることが示されました。持続可能な製品に対する顧客の意識、コストを節約する材料の軽量化の必要性、政治的圧力、および法規制のすべてが、持続可能な製品革新を後押しします。テクノロジー開発だけに焦点を置くとしても、全てのテクノロジーはある程度持続可能なものです。未来のために循環型経済を促進し加速させるために、新技術は最初から持続可能性を考慮したものでなければなりません。また、化学産業界における長期の移行期間、特定の物品に対する材料要件、または既存の(物流)問題の解決など、複合材料に関する既存の問題を解決するためには、新しいソリューションとビジネスモデルを作り出す必要があります。イノベーションがあれば、コスト効率が高く機能的で軽量、そしてバリューチェーン全体において持続可能な未来の製品が開発されるでしょう。時には、自然界から着想を得たソリューションのほうが製品・技術開発に役立つこともあります。ハニカム構造はすでに十分に確立されています。JEC World 2022で、Helicoid Industries (https://www.helicoidind.com/ ) はシャコからヒントを得た生体模倣の複合材料を展示しました。おそらく自然界には、イノベーションにつながる手がかりや宝物がまだまだあるのではないでしょうか。