「人類の自然環境への影響」と言われると、化石燃料を動力源とする車や飛行機などの交通や発電所、天然資源の枯渇などを思い浮かべる人が多いだろう。これら人類の活動が自然環境に与える影響は甚大だが、工業的畜産がもたらす破壊的な影響についてはそれほど言及されていないのではないか。
国際連合食糧農業機関によると、畜産業は世界全体の地球温暖化ガス排出量の約14.5%を占めており、報告によると、自動車、トラック、電車、飛行機などすべての移動手段が排出する量より多いとのことだ。資源集約性が高い畜産業は、世界の合計淡水消費量の約20~30%を占めており、畜肉製品や乳製品などの動物性食品のエネルギー効率は、食品および飲料製品の中で最も低いと言われている。多量の水を消費し、エネルギー効率は低く、温暖化ガス排出量は極めて多い、という事実は移動手段や電力を語られる並みかそれ以上に注目されるべきだろう。
工業的畜産は、自然環境だけでなく、人類の健康問題や動物福祉の観点でも懸念がある。例えば家禽は、しばしば動物由来感染症の温床となり、抗生物質耐性菌が畜産物から発見されることもある。人々の所得水準の向上と動物性製品の消費量は比例する傾向があるが、今後さらに人口が増加し、増えた経済中間層がより多くのたんぱく源、動物製品を求めるなか、「私たちは、どのように全人類の食料を確保するのか」は喫緊の課題の一つだ。
また畜産業は、さまざまな国で非正規の労働者が働く業種のひとつであり、労働者に対する安全対策が不十分だったり、古く安全管理がされていない設備や器具、有害化学物質からの十分な保護がなされていなかったりなどの問題が発生している。
動物福祉に関する問題も畜産業界では対策が急がれている。不十分な生育環境、密集度の高い飼育スペース、くちばしや尾のトリミング、遺伝子操作やホルモン注射など、産業動物を搾取し、「動物が精神的、肉体的に十分健康、幸福であり、環境とも調和していること」という動物福祉の理念が脅かされている。人間は動物をできる限り快適に、できる限り苦痛をうけずに生活できるようにする義務と責任がある。これは畜産業当事者だけでなく、サプライチェーンの複数のプレイヤーが絡んでいる。
─── ここで、事例を紹介しよう。
Green Mondayグループは気候変動や様々な食料問題に立ち向かうため、プラントベース(plant-based)の食生活と自然環境保護を推進する目的で、香港でNGOとしてスタートした。食品ブランド運営・フードテック事業であるOmniFoods (オムニフーズ) はアジアの植物性代替タンパク食品のパイオニアとして、プラントベースの食生活への移行をサポートできるような動物性製品の代替食品を生み出している。アジアの植物性代替タンパク食品ブランドでは、最も多額な投資の一つとなる7,000万米ドルの資金調達を果たし、現在は、米国、英国、シンガポール、中国本土を含む、世界20の国と地域で展開している。欧米ブランドが有名な代替タンパク市場で、アジアの食文化と調理に重点を置き、差別化している点が特徴だ。近年では、マクドナルド、スターバックス、 セブンイレブン、ホールフーズなどと協業している。最近はスターバックス香港でのOmniSeafoodシリーズ商品がメニューに導入であり、グローバルコーヒーショップチェーンが世界で初めて代替魚介類を導入する快挙となった。
待望のオムニフーズの日本での正式販売は2021年1月に開始され、主力商品であるOMNIミンチが、成長を続ける国内代替肉市場に導入された。パンデミックによって助長された国内消費者間での健康意識の向上に応え、従来の畜肉よりも健康的なプロフィールを持つ当商品は、高健康意識を持つ最終消費者だけでなく、健康的でかつ菜食主義などをはじめとする食の多様性に配慮した代替品を求める外食事業者に広く受け入れられているようだ。
植物性代替タンパク質食品ブランド “OmniFoods”
Green Mondayグループの飲食料品小売業 “Green Common”
*参照:
国際連合食糧農業機関. Tackling climate change through livestock. [ローマ] :国際連合食糧農業 機関, 2013 国際連合食糧農業機関. Sustainability and Organic Livestock [ローマ] :国際連合食糧農業機関, 2014 世界動物保護協会,
https://api.worldanimalprotection.org/country/japan
– Green Monday グローバル ウェブサイト – https://greenmonday.org/
(英語の外部リンク)